440年を越える歴史を五感で楽しむ
〈Saint-Louis(以下、サンルイ)〉は、ヨーロッパ大陸最古のクリスタルメゾンだ。透き通ったクリスタルは光を柔らかく捉え、職人による卓越した技術により生み出されたオブジェの数々は、日常に、これまでにない上質な時間をもたらしてくれる。その歴史と伝統、そして世界にひとつしかない〈サンルイ〉の世界観を愉しめる場所を紹介しよう。
〈サンルイ〉の歴史と職人技
クリスタルとは、一般的なガラスよりも高い透明度と輝きを備え、光を美しく反射・屈折させるガラスの一種。その魅力を最大限に引き出すうえで重要になるのが、吹き、カット、エングレービング、装飾といった職人の技である。〈サンルイ〉は、クリスタルを単なる器や装飾品にとどめることなく、光と色を巧みに操り、暮らしそのものを豊かに彩る存在へと昇華させてきた。
その歴史は1586年、フランス北東部ロレーヌ地方・北ヴォージュの山々に囲まれた小さな村に誕生したガラス工房に始まる。ガラス製作の原料となる珪砂、森のシダから得られるポタシウム、カットのための川の水。ガラス作りに必要な自然の恵みを備えたこの地で、サンルイの歴史は幕を開けた。

1767年にはルイ15世から「サンルイ王立ガラス工房」の称号を授けられ、1781年にはフランスで初めてクリスタルの製造技術を確立。1829年からは「サンルイ王立クリスタル工房」となり、その技術を磨き続けてきた。
現在も〈サンルイ〉のオブジェは、“ホットワーク”と“コールドワーク”と呼ばれる、熟練した職人たちの技術によって生み出されている。“ホットワーク”では、高温で溶かしたクリスタルを職人が竿に取り、息を吹き込み、温度や柔らかさを見極めながら、狙い通りのフォルムへと成形。“コールドワーク”では、冷えて固まったクリスタルを手作業でカットし、エッチングと金彩装飾を施す。表面に繊細な陰刻模様や装飾を刻み、光を美しく屈折させる〈サンルイ〉ならではの輝きを引き出していく。こうした世代を超えて受け継がれてきた多彩な技法が、ひとつのオブジェに惜しみなく注ぎ込まれているのだ。



生活様式を変えたクリスタル
〈サンルイ〉を語るうえで欠かせないのが、フランスの食卓との深い結びつきだ。19世紀初頭、食文化の変化とともに、飲み物に合わせて複数のグラスを使い分ける習慣が広がっていく。〈サンルイ〉は1834年、〈トリアノン〉コレクションを通して、テーブルに複数のグラスを組み合わせるという新たなスタイルを提案。クリスタルを、食卓を彩る芸術へと昇華させていった。ワインやシャンパーニュ、水など、それぞれの飲み物にふさわしいグラスを揃え、美しく配置する。現在では当たり前にも思える華やかなテーブルセッティングの文化とともに、〈サンルイ〉はその歴史を重ねてきたのである。

ⒸMaxime Tetard
1928年には、〈サンルイ〉の象徴的なコレクションとなる〈トミー〉が誕生する。直線的で端正なフォルムにダイヤモンド、ベベル、パール、リムなど、多彩なカットを重ねることで、クリスタルに複雑で華やかな光の表情を生み出している。〈サンルイ〉が長い歴史のなかで培ってきたカット技術を存分に堪能できる逸品といえるだろう。

〈サンルイ〉を語るうえで、もうひとつ欠かせないのがシャンデリアだ。1837年に登場し、やがて王侯貴族の空間を飾る存在へ。1858年には、色彩豊かなクリスタルや枝分かれする構造を取り入れるなど、その表現を進化させていった。無数のカットが施されたクリスタルが光を受け、反射と屈折を繰り返しながら、周囲に多彩な輝きを映し出す。シャンデリアは、単に空間を照らすためのものではなく、空間に表情を与える存在へと変化していった。2015年に発表された〈ロワイヤル〉には、ベベルやダイヤモンド、スター、ヴェネチアンなど多彩なカットをはじめ、ゴールドやプラチナによる装飾、色鮮やかなカラークリスタルなど、メゾンが誇る技術が惜しみなく注ぎ込まれている。特筆すべきは、サイズやスタイル、カラーなどを組み合わせてカスタマイズできること。現在では、ひとつのシャンデリアで5万通りを超える組み合わせが可能とされ、空間に合わせた特別な一基を仕立てることができる。宮廷文化を思わせる華麗さを継承しつつ、現代の建築や暮らしに呼応する〈サンルイ〉のシャンデリアには、長い歴史のなかで〈サンルイ〉が磨き続けてきた「光をデザインする」という思想が凝縮されている。

〈サンルイ〉の伝統を現代の暮らしへ
〈サンルイ〉を際立たせているのが、こうした伝統を保存するだけでなく、現代のライフスタイルに合わせて大胆に更新し続けている点だ。2011年に誕生した〈アンディアブレ〉もまた、長い歴史を持つメゾンのクリスタルに、遊び心あふれる解釈を加えたコレクションといえる。最大の特徴は、〈サンルイ〉を代表するさまざまなグラスのフォルムを組み合わせ、上下どちらの向きでも美しく見える造形に仕立てていることだ。異なる時代に生まれたフォルムやカット、鮮やかなカラークリスタルを自由に組み合わせることで、メゾンが培ってきた豊かな表現を、新たなかたちで引き出している。グラスとしてはもちろん、向きを変えることで花器やキャンドルホルダー、オブジェなどにもなり、使い手の発想次第で用途が広がっていく。その自由さは、まるでクリスタルとの対話から新たな使い方を見つけていくようでもある。2026年には、誕生から約15年を経たこのアイデアにジョゼ・レヴィ自身が再び向き合い、新たな3種を加えてコレクションを展開。数世紀にわたり受け継がれてきた職人技や伝統的な意匠を尊重しながら、その“使い方”を軽やかに解放した、〈サンルイ〉の自由な創造性を象徴するシリーズである。

また、〈フォリア〉も〈サンルイ〉の新たな表現を象徴するコレクションのひとつだ。着想源は、工房を取り囲むモーゼルの森の木々の葉。クリスタルには千鳥状のベベルカットが施され、木の温もりとクリスタルのきらめきが美しい調和を生み出している。さらに近年では、手のひらほどのコードレス照明、〈フォリア〉ミニポータブルランプも登場。かつて壮麗な宮殿や大広間を照らしてきたクリスタルの光が、現代の日常へと軽やかに入り込んでいるのだ。

400年以上受け継がれてきた技術を守りながら、食卓から家具、そして手のひらサイズの照明まで、クリスタルの可能性を広げ続ける。その革新的な姿勢こそが〈サンルイ〉の真骨頂だ。時代ごとの暮らしに寄り添いながら、「クリスタルとともにある生活」を創造し続けること。その積み重ねが、〈サンルイ〉を唯一無二のクリスタルメゾンたらしめている。
※〈ツイスト 1586〉以外、すべての写真ⒸSaint-Louis