睡眠という、最高の自己投資

睡眠という、最高の自己投資

睡眠は単なる休息ではなく、健康や判断力、日中のパフォーマンスを支える重要な基盤であり、
いまや自己投資のひとつとして捉えられ始めている。
フェニックス メディカル クリニックの賀来哲明先生に、
現代人を取り巻く睡眠環境と、進化する睡眠医療について伺った。

情報過多社会が
脳の休息を奪っている

―近年、「睡眠は投資対象である」と言われています。その背景をどうご覧になっていますか。

賀来 現代人は、昔と比べて圧倒的に多くの情報を処理しながら生活しています。スマートフォンやオンライン環境の普及によって、仕事とプライベートの境界も曖昧になり、脳が常に覚醒し続けている状態になっているのです。自宅でも仕事ができる時代になった一方で、脳を完全に休ませる時間は減っているのかもしれません。

さらに、日本人は世界的に見ても睡眠時間が短い傾向にあります。医学的には7時間以上の睡眠が推奨されていますが、厚生労働省の調査では、40代~50代の約80%が1日の睡眠時間が7時間未満とされています。多くの方が、慢性的な睡眠不足を抱えているのが現状です。 睡眠不足は、単に「眠い」で済む問題ではありません。集中力や判断力の低下だけでなく、衝動性の増加、代謝機能の悪化、さらには心血管リスクの上昇など、さまざまな影響が蓄積していきます。だからこそ近年は、限られた睡眠時間をより良質なものにしようと、寝具や睡眠環境へ投資する方が増えているのでしょう。

―睡眠不足は、具体的にどのような疾患を招くのでしょうか。

賀来 代表的なのは、肥満、糖尿病、高血圧、心血管疾患、脳卒中、うつ症状です。特に睡眠時無呼吸症候群は、これらのリスクを高めることがわかっています。 睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に呼吸が止まる病気です。特に閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)は、舌根の筋力が年齢とともに低下したり、肥満によって睡眠中に気道が塞がれて起こります。1時間あたりの無呼吸回数が15回以上の中等症になると、CPAP(シーパップ)という治療器の装着が推奨されます。これはマスクから空気を送り込んで気道を広げる治療法で、睡眠状態の改善や生活習慣病リスクの低減が期待されています。

重責を担う世代ほど
睡眠リスクを抱えている

賀来 特徴的なのは、脳が常に緊張状態にあることです。経営層の方々は、夜間でも問題が発生すれば対応を迫られることが多く、脳が十分に休まらない傾向があります。さらに、会食の機会も多いため、就寝直前の食事や飲酒が睡眠の質を低下させてしまうケースも少なくありません。

また40代以降になると、年期によるホルモンバランスの変化も睡眠に大きく関係してきます。更年期におけるホルモンバランスの乱れは、男女ともに睡眠障害を引き起こします。特に男性更年期症候群と睡眠は密接に関係しており、睡眠不足が男性ホルモン(テストステロン)の低下を招き、さらなる更年期症状の悪化を招くという悪循環に陥りやすいのです。倦怠感や集中力の低下など、睡眠不足と更年期障害の症状は酷似しており、4 0 代~6 0 代では両者が重なっているケースも少なくありません。

―現代の睡眠医療はどのように進化しているのでしょうか。

賀来 かつては睡眠薬によって「眠らせる」治療が中心でしたが、現在は「睡眠リズムそのものを整える」アプローチへとシフトしています。睡眠を誘導するメラトニン受容体に作用する薬も登場していますが、薬はあくまで補助的な役割です。本当に重要なのは、日中のストレスや脳の過覚醒を、いかにコントロールできるかという点にあります。

当院では、呼吸器科で睡眠時無呼吸症候群の相談を受けており、検査として睡眠障害を診断するポリソムノグラフィー(PSG)を行っています。体に多くのセンサーを取り付け、睡眠中の脳波、心電図、呼吸、酸素濃度などを総合的に測定する検査です。

以前は入院検査が中心でしたが、現在は自宅でできるタイプも増えています。忙しい方でも検査を受けやすい環境が整いつつあります。

睡眠の質を左右する
生体リズム

―睡眠の質を高めるために、本質的に取り組むべきことは何でしょうか。

賀来 睡眠改善において、特に重要なのは次の4点です。

①7時間以上の睡眠時間を確保すること
②睡眠リズムを一定に保つこと
③食事・運動・カフェイン・アルコールを適 切に管理すること
④睡眠を阻害する疾患(無呼吸症候群など)を適切に治療すること

特に大切なのは、朝に光を浴びることです。朝日によって体内時計が整いやすくなり、睡眠リズムも安定しやすくなります。最近では、朝になると自動でカーテンを開けてくれる機器などもありますが、そうした環境づくりも有効でしょう。

一方で、就寝直前のスマートフォン使用や、カフェイン摂取、寝酒などは避けたほうが望ましいでしょう。脳を覚醒させ、睡眠を妨げてしまいます。睡眠改善は、何かを「足す」こと以上に、「悪い習慣を引く」ことが重要なのです。

また最近では、脳の過覚醒を和らげる補助的な方法として、漢方を取り入れるケースもあります。「抑肝散(よくかんさん)」は、日中の興奮や緊張、イライラを穏やかに抑え、夜に眠りやすい状態へ導くことが期待されています。ただし、サプリメントや薬だけでコントロールしようとしても限界があります。まずは生活習慣を整えることが重要です。 
人生の約3分の1を占める睡眠は、単なる休息ではありません。健康維持だけでなく、日中のパフォーマンスを支える「見えない資産」でもあります。起きている時間だけではなく、眠っている時間の質にこそ、これからの時代は意識を向けるべきなのかもしれません。

 

賀来哲明

医療法人社団鳳凰会フェニックスメディカル クリニック医長、産婦人科医長。2014年、東京医科大学医学部医学科卒業。同年より東京大学医学部付属病院にて医師として従事。2020年より現職に就任。

 

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