台湾の多民族性を豊かな食材で表現し 食の持続性にも貢献
台湾の多民族の食文化を継承する、新台湾料理の「好嶼HOSU」。
さらに島の農業を持続循環させる同店の取り組みが、
ミシュランからの高い評価につながった。
中華系民族一色のように誤解されやすいが、実は台湾には多民族が共存しており、アミ族やタイヤル族など先史時代からの原住民族がいる。時を下って17世紀に大陸の福建地方から漢民族が移住。さらに戦後、蒋介石らの外省人が渡り、近年は東南アジアから新住民も増えている。こうした台湾の民族史を食で表現するのが「好嶼HOSU」だ。「嶼」とは台湾諸島を表す。

台湾で営むファインダイニングの料理人は、その多くが海外や国内有名店で修行しているが、同店のシェフ李易晏はそうした経験を持たない。ピザ店で働いた後、ビストロを開業。そして2022年、独自のコンセプトで「好嶼HOSU」を開き、昨年末、現在の地に移転した。

近年、台湾では自分たちのアイデンティティを模索し、台湾古来の文化を見つめ直す動きが高まっている。李シェフもそこに注目し、以前から原住民族の集落を訪れ、伝統的な食材や料理法を学んできた。また地方の農業生産者の元にも足繁く通い、今では食材の95%を台湾産でまかなえるまでになったという。
現在のメニューはコースのみであり、「辦桌(パントッ)」と呼ばれる台湾の伝統的な宴会料理をベースに設定。コースの品目にそれぞれの民族の食材や調味料を取り入れ、全体を味わうことで台湾の食文化を体験することができる。左上写真は台湾南部から仕入れた、アマニを食べて育った豚のロースを2週間熟成させた炭火焼き。ソースは豚骨出汁に米を主原料とするウイスキーを加えている。一方、右上写真は台湾の湖や川をイメージしたスープ。蛤で出汁をとり、具材にはマコモとカエルのミートボール。そして写真右下はズッキーニの花の天ぷら。下に敷いたのは自家製豆腐。奥の四角い乾燥湯葉を砕いて振りかけて食す。まさに台湾を味で旅する思いに溢れる。

店は農業の持続可能性にも前向きだ。余った食材を再利用するにとどまらず、今年6月には台北郊外に自社農園を取得。そこでは店の廃棄物をミミズの餌にして有機農法を実現。新鮮で安全な食材を生産し、食文化の循環に勤しむ。ちなみに店の壁はリサイクルされた牡蠣殻の粉末で塗装するが、これも資源再利用の試みだという。
こうした「好嶼HOSU」の試みをミシュランも高評価し、店は2023年から3年連続で「ミシュラン・グリーンスター」を獲得。そして今年、念願のミシュランの一つ星に選ばれた。一つ星とグリーンスターの両方を得ているのは、同店を含めて台湾に2店しかない。食という文脈で台湾を真っ直ぐに見つめる、そんな美食の潮流がここに育っている。
好嶼HOSU
HOSU

ADRESS:台北市大安區仁愛路四段300巷20弄17號
TEL:電話は非公開(予約は以下からオンラインのみ)
OPEN:火曜〜土曜、18:30~22:00
(土曜は12:00~15:00も営業)