台湾に滞在して見るべき建築は台中ばかりにあるわけではない。大都市・台北で注目される建築のひとつに、2022年に誕生した劇場施設「台北パフォーミングアーツセンター」がある。ガラス張りのビルに、巨大な球体が衝突しているような外観。世界を見渡しても、これほどショッキングなランドスケープはそうそう見られないだろう。夜市の喧騒で知られる士林地区にそびえ立っている。

設計したのは、プリツカー賞の受賞歴を持つオランダ人建築家のレム・コールハース。米伊韓各国にあるプラダのビルが作品として有名だ。台北の建造物はもうひとりの建築家デイヴィッド・ジャーノッテンと、さらに台湾の建築チームも参加してデザインされた。

眺めてまず思うのは、球体の中に何があるかだろう。内部は776席の劇場だ。その天井は球体の内側の曲面で構成されている。イメージの根底にあるのは惑星だと紹介されているが、別のインタビューでは夜市で見た火鍋の鉄勺、つまり「オタマ」からインスピレーションを受けたとも語っている。なかなか面白い発想ではある。

この舞台芸術センターには球体天井劇場の他に、1460席の大劇場と、主に実験的な演目に使われる別の800席の劇場があり、そのふたつの劇場は合体させることができる。さらに三つの劇場は中央のパブリックスペースで結合されており、そこでは演目チケットの有無を問わず、公演作品の制作の現場を自由に見学することができる。つまり舞台関係者だけでなく、観客もまた新たに生まれる舞台芸術の構成要素のひとつだという考えだ。世界を揺るがすような斬新なパフォーミングアーツが、ここから世界へ発進されることを応援したい。