
インド洋の生命力と調和する晩年の傑作
スリランカとは「光り輝く島」を指す。
インド洋に浮かぶ自然豊かな島だ。
稀有な歴史遺産、セイロンティーの高原、トロピカルリゾートの原点。
北海道ほどのこの南の国には、溢れるばかりの感動が待っていた。
世界遺産の街ゴールからほど近くに構える〈ジェットウィング・ライトハウス〉はインド洋の雄大な自然美と一体化するようなリゾートホテルである。
バワが生んだトロピカル建築の哲学は、現代のリゾート概念の根底に流れている。
スリランカ南部最大の街ゴールは、古く14世紀からアラビア人、続いてヨーロッパ人たちが貿易のために築いた、砦の港町だ。
ユネスコの世界文化遺産に指定されている。
道路側から見た〈ジェットウィング・ライトハウス〉の外観は、ゴールの砦を思わせる石壁だが、エントランスの先にバワは驚く仕掛けを用意した。
ロビーに続く螺旋階段には、ドラマチックなブロンズ彫刻が3階まで配されている。
ポルトガルとの戦いの歴史を物語るアートだ。
その階段を登り切ると、暗がりの景観は一転、鮮やかなインド洋のブルーが目に飛び込んでくる。
閉鎖された空間の先に、海の広がりを用意する手法は今日のリゾート建築では珍しいものではないが、バワはこの建築演出の先覚者であった。
ちなみに同じく現代のリゾートホテルの定番施設であるインフィニティプールも、バワが世界で初めて造った。
ロビーからオープンエアのテラスに出ると、4組のテーブルがある。
目の前には造成しない自然の岩が続き、満ち潮になればテーブルの目の前で豪快な波しぶきが上がる。
ホテルは海の生命力と一体化しているのだ。
さらにバワの演出は客室にも。
部屋の壁を切り抜き額縁のように見立てて、インド洋の美しさを楽しませてくれる。
バワは2003年に亡くなったが、その翌年、このホテルはスマトラ沖大地震に見舞われ、浜辺の施設は津波に消えた。
しかしバワの弟子が、被害を受けた場所に美しいプールとスパと宿泊棟を新設した。
バワの建築哲学の遺伝子は確実に継承され、今日もゲストを魅了して止まない。