蘇州風の佇まいの中 老荘の「自然観」を思い、茶藝の薫香を知る

蘇州風の佇まいの中 老荘の「自然観」を思い、茶藝の薫香を知る

肩肘を張らず、ただ香りと味を愉しむのが台湾の茶藝。
台中の街中にある茶藝館「無為草堂」には、
心豊かになれる、薫り高い時間が流れていた。

 

台湾に茶が渡ったのは1796年あたり。福建の商人が烏龍茶の苗木を植えたのが始まりと伝わる。温暖で雨量の多い台湾の自然環境は茶葉の生育に適しており、やがて大陸とは異なる独自の品種改良が進み、世界最高峰の茶を生産するに至っている。

台湾には全発酵の紅茶や一部にジャスミン茶などもあるが、台湾茶を代表するのは何といっても烏龍茶だ。それは不発酵の緑茶と全発酵の紅茶の中間に位置する半発酵茶であり、爽やかながら奥深い味わいに富む。日本茶のように茶葉を細かく刻むのでなく、丸い塊のような形状をしているのが特徴で、熱湯を注ぐと大きく膨らみ、摘んだときの姿に戻る。

台湾には「茶藝」という文化がある。比較的新しい潮流であり、1970年代に広まった。日本の茶道のように型を重んずるのではなく、いかに茶そのものを美味く味わうか、おおらかに愉しむのが流儀だ。

台中のビル街に、ひっそりと佇む茶館「無為草堂」がある。開業は1994年。蘇州様式とも聞く、渡り廊下や東屋が池を取り囲み、情緒を感じさせる。初代店主は老子の「無為自然」思想を現代に提案したかったという。それは、手を加えずとも良き自然は自ずと成り立つという摂理だ。

台湾の烏龍茶は種類豊富であり、凍頂烏龍茶や阿里山烏龍茶が名高いが、「無為草堂」では杉林渓烏龍茶を体験したい。標高1600m以上の山でしか採れないその茶は、繊細な口あたりの奥に甘みが現れる。店のお点前を紹介しよう。まず茶壺(上写真の茶色の急須)に茶葉と湯を入れる。次いで茶海(白磁の急須)に茶湯を移し、そして右上の聞香杯と茶杯に注ぐが、最初は器を温めるだけで茶湯は捨てる。そして再び、茶海に茶湯を注ぎ、それを聞香杯に注ぎ、最後に茶杯に注ぐ。聞香杯では飲まずに残り香だけを楽しむ。その後に茶杯の茶を味わう。

アンティークに囲まれての茶藝は風情あるものだが、聞けば家具の一部は霧峰林家にあった骨董品とも。実は店主の親戚筋に、林家の血筋がいるとのこと。台中の歴史建築逍遥が一本の糸で繋がった。

 

無為草堂
Wu Wei Tsao Tang Teahouse

ADRESS:台中市南屯區公益路二段106號
TEL:+886-4-2329-6707