台湾が世界に誇る モダニズム建築の教会 路思義教堂
台中にあるキリスト教系の大学、東海大學にこの教会は立つ。
柱も梁もなく、壁と天井が一体化した4面の曲面建造物。
掌を合わせ祈るようなフォルムは、神々しいばかりだ。
台中の東海大學は、台湾で最初に開校したキリスト教系の私立大学だ。開校は1955年。1949年、大陸に中華人民共和国が成立すると、キリスト教系大学は閉鎖に追い込まれ、新天地を探す中で台湾が選ばれた。
その緑豊かなキャンパスに、モダニズム建築の教会「路思義教堂(英語名はThe Luce Chapel)」が建築されたのは1 9 6 3 年のこと。米国雑誌『T I M E 』『LIFE』を創刊した大物出版人ヘンリー・ロビンソン・ルースが、中国で宣教師として活動した父ヘンリー・ウィンターズ・ルースを讃えるために資金を捻出し、建設に尽力。台湾のモダニズム建築の流れはここから始まった。

当初、ニューヨークでキャンパスの設計が練られたため、教会の設計者には在米中国人建築家イオ・ミン・ペイに白羽の矢が立った。後年、パリ・ルーブル美術館のガラスのピラミッドを設計した人物だ。台湾からの依頼の際は、ペイは多忙のあまり別のふたりの中国人建築家にも設計参加を要請。こうして教会は形成されていった。
岐阜県の白川郷で有名な合掌造り。両掌を合わせたような屋根の形で知られているが、それを思い出させるようなこの教会には壁面そのものがなく、屋根が壁の役割も担い、地面に接している。実はこの構造は耐震性に優れ、地震国である台湾にふさわしい建築様式だと評価されている。
教会は壁がないだけでなく、柱も梁もない。左右に各2枚の巨大な曲面が頂点で支え合うシェル構造が採用され、正面と背面の開口部、そして面のつなぎ目と天井は大胆にガラス張りとされた。こうして昼は太陽光、夜は照明により、時間によって全く異なる神々しさを放っている。

最初、ペイは木造建築を目指していたが、強度等の問題が解決できず、躯体には鉄筋コンクリートが採用された。外装は菱形の釉薬タイルを頂点まで張り付けており、内装もやはり菱形をしたコンクリート格子が網目状に連続している。極めて斬新かつ神秘的な空間が広がり、そして前後2枚の継ぎ目の延長線上に祭壇が設けられている。これほどモダンな建築が、60年以上も前の台湾に造られていた事実に、改めて驚かされる。
そんな「路思義教堂」であるが老朽化は避けられず、2022年から2年間に及ぶ改修工事が行われた。そして2024年秋、再出発を果たす。かように台中市では新旧の名建築が共存し、未来を見つめている。
東海大學 路思義教堂
The Luce Chapel, Tunghai University

ADRESS:台中市西屯區臺灣大道四段1727號
TEL:+886-4-2359-0121