ヘルシンキの一夜 カクテルの傍らこの国を思う
冬場は15時には暗くなり、夏場は23時を過ぎても明るいフィンランド。ともあれ季節を問わずに、この国のビジネスアワーは朝早くに始まり、早い時間に終わる。そんな早い仕事帰りの客を迎えるためか、ヘルシンキ中央駅のほど近くに構えるカクテルバー「バーデン」は、16時にはオープンする。
カウンターの他、ソファが数席あるだけの、こぢんまりとしたバーである。しかしその実力は確かであり、2024年には店はフィンランドの「ベストカクテルバー」に選出されている。
フィンランドでは香味料のジュニパーベリーが森の中に自生することもあり、それを香り付けに使うジンがとてもポピュラーだ。店ではジンベースのカクテルが無論、多く揃うが、それ以外にもオーソドックスなカクテルはもとより、オリジナルのカクテルも充実している。そこでお勧めをオーダーしてみた。
レミー・マルタンXOをベースに、イチジクのリキュールを加えたカクテルは「Figure it out」。エスプレッソビーンズやホワイトバルサミコを隠し味に加えているが、気が利いているのはそのネーミング。イチジク=FigとFigureをかけている。
もうひとつ、カウンターに並んだカクテルの名は「1,2,3,Go, Bitch!」。北欧の名物蒸留酒であるアクアヴィットをベースに用いたロングカクテルだ。CHOYAの梅酒を香り付けにし、タラゴンやカモミールなどリラックス効果があるハーブを加え、仕上げにコーンフラワーをグラスの外側にトッピングしている。こちらの不思議なネーミングの意味を尋ねると「意味なし」とのこと。なんとも、客をからかっているのだろうか。
実はフィンランド人の国民性のひとつに冗談好きが挙げられる。デザインへのこだわりも、滑稽なジョークも、この国が長い年月歩んできた暗い世相を少しでも明るくしたいと願い合い、そうして国全体に流布されていった特色だとよく語られる。雪と闇に閉ざされる長い冬を生き抜き、大国に囲まれ歴史に翻弄されてきたフィンランド。少しでも心を豊かに、明るくしてくれるものに価値を求めてきた。寂しげな部屋を温もりのあるデザインで飾り、ジョークの笑いで辛さを忘れること。この国を歩くと、アアルトが目指したヒューマニティという精神がいかに大切か肌身で感じられる。
人間性の追求。フィンランドのデザインはこのテーマを常に根底に据え、時代に合わせて進化を続けている。だからこそ世界から称賛され、そして愛される、ここはデザインの王国なのだ。
