フランツ・ヨーゼフ1世皇帝も仕立てた ビスポーク・テーラー〈クニーシェ〉

フランツ・ヨーゼフ1世皇帝も仕立てた ビスポーク・テーラー〈クニーシェ〉

ウィーンには、ハプスブルク家の御用達だった老舗が現存している。

そのひとつに、皇帝の装いを仕立てた名門テーラーがある。

腕前は誉れ高く、ウィーンフィルの団員も演奏服をあつらえる。

ウィーンの旧市街は「リンク」と呼ばれる環状大通りの内側に位置し、その中心がシュテファン大聖堂だ。

リンクに沿うように、元の皇宮にあたるホーフブルク宮殿、国立歌劇場、美術史美術館など、国の主要施設が連なる。

リンクの内側にあるグラーベン大通りは、この都きっての繁華街。そこにハプスブルク家御用達だった老舗テーラー〈クニーシェ〉は構えている。

過剰な装飾を一切排した内装のデザインは、20世紀初頭の大建築家、アドルフ・ロースによるものだという。

1858年、ボヘミア出身の仕立て職人、ヨーゼフ・クニーシェが創業した。

その紳士服づくりの腕前は群を抜き、ハプスブルク家をはじめ、欧州の各国王室が顧客名簿に名を連ねてきた。

今日も店の壁には、オーストリアのフランツ・ヨーゼフ1世皇帝やフランスのナポレオン3世らの免状が誇らしげに飾られている。

マレーネ・ディートリッヒも女性スーツをここで仕立てたという。

20世紀を迎え、オーストリア=ハンガリー帝国が終焉すると、その後〈クニーシェ〉では既製服も始めた。

そこまでは順調であったが、ナチスの台頭がこの紳士服店に暗い影を落とす。

店主一家はユダヤ系であり、一旦米国へ亡命。

第二次大戦後、帰国するも、戦後の物資不足もあり、店は風前の灯火だった。

しかし、かつて見習いで働いていたルドルフ・ニーダーズース氏が一念発起する。

独立して自分で始めた店と改めて合併して〈クニーシェ〉の名前を継ぎ、一流の誉れを絶やさずに守った。

すでに80代後半の年齢だが、いまも店に立つ。

さて、ウィーンといえば、いまも昔も音楽の都。

いうまでもなく、世界で最も燕尾服が似合う街のひとつだ。

当然のように、ウィーンフィルの団員も〈クニーシェ〉で演奏服を仕立てている。

通常のスーツを仕立てる場合で、仮縫いは3回。シャツでも仮縫いは2回。

旅行者には時間的制約があるのでビスポークはハードルが高いが、レディメイドも評判である。

テーラーでは世界で初めて、オリジナルのフレグランスを製造販売したのもこの店。

ウィーン流のダンディズムが薫る老舗だ。

Knize/クニーシェ

住所:
Graben 13 1010 Wien
電話番号:
+43 1 512 21 99
営業時間:
10:00〜18:30 土曜10:00〜17:00
定休日:
日曜・祝日