他人事ではない糖尿病最前線その実態

他人事ではない糖尿病最前線その実態

昨今、健康志向が高まっている日本。
しかし日本人の3人に2人は生活習慣病と言われおり、中でも日本人は糖尿病になりやすい体質をもつとの指摘もある。フェニックス メディカル クリニックの賀来哲明氏に糖尿病についてお話をうかがった。

—フェニックス メディカル クリニックさんでは、多くの企業の健康診断や人間ドックをおこなっていますが、糖尿病と診断される方は増えているのでしょうか。

賀来 発見される率自体は基本的には横ばいですね。いま、日本には糖尿病の人と、その予備軍がほぼ同じくらいの1,000万人ずついると言われています。

—なるほど。横ばいとはいえ、日本の人口を考えれば予備軍を含めて5人にひとりは糖尿病になる時代なんですね。

賀来 検診でわかった場合、初期症状であることが多いので運動や生活習慣を変えることで対応はできます。また医学の発展により重症化も減ってきています。ただ世界的に見ると糖尿病は増加傾向にあります。患者数が多い国としては、インド、中国、アメリカ、パキスタン、インドネシアなどが挙げられます。

—それは人口が多いベスト5でもありますね。

賀来 はい。人口が多いので患者数も多いというのもあるのですが、低所得から中所得の人たちの糖尿病患者が増えているんです。こうした方々はファストフードを頻繁に食べたり、甘さは美味しいと感じられやすく満腹感も得やすいので、糖を使用した安価な食べ物を摂ることが多く、結果的に患者さんが増えているようですね。

—特に熱帯地域などでは糖を多く入れることで保存が効きやすくなるというのもあるのかなと感じますね。

賀来 日本食そのものはヘルシーではあるので、患者数だけで見れば世界ランキングでは11位です。ですが5人にひとりは糖尿病になっている、もしくはなってしまう人がいるので注意が必要ですね。

—日々の生活の中で自覚症状として現れるのはどういったものがあるのでしょうか。

賀来 まずは頻尿と枯渇感ですね。糖尿病は血中の糖分、いわゆる血糖が増えすぎて膵臓から出る血糖を下げるホルモン、インスリンが対応できなくなる病気です。糖尿病という名前の通り、腎臓が血液をろ過して尿となったときに糖が多くあるとそこに水分が集まって頻尿になる。水分が多く出るので喉が渇いてしまう。これが自覚症状としては一番わかりやすいと思います。

—よく、患者さんのお話を聴いていると手足のしびれなども出てきますね。

賀来 手足のしびれは重症化してくるとあらわれることが多いと思います。血糖が血管を傷つけて血流が悪くなる。特に末端の血管は細く、傷つきやすいうえ治りが遅い。それが積み重なって、手足のしびれにはじまり、指先や足先などの末端が壊死してしまうといったことが起きるんです。

—糖尿病そのものも怖いですが、糖尿病が引き起こす合併症が怖いですね。

賀来 そうなんです。糖尿病になると、冠動脈疾患、心筋梗塞、脳卒中や脳梗塞などといった血管系の疾患リスクが2倍から3倍に上がり、癌も20%くらいリスクが上がるんです。さきほどお話したように血流が阻害されるので男性であればEDが発症することも多いですね。

—たしかに血管は体中を巡っているものですし、身体のあらゆるところにリスクを抱えることになりますよね。
賀来 特に気をつけたいのは膵臓癌ですね。弊院も、糖尿病といえば膵臓のMRCP (※)を見ているくらい可能性が高く、普通の検診でも見つかりづらいのでかなり気をつけています。

※ MRCP(MR胆管膵管撮影):MRI装置を用いた膵臓がん、胆のう・胆管がんの検査。

糖分が入った飲料は避けるべき

—糖尿病にならないように気をつけることとしては、なにが挙げられるのでしょうか。

賀来 まず、糖尿病は1型と2型というものに分けられます。1型はインスリンがそもそも出ない体質の方です。2型は食生活などの乱れや運動不足といった後天的な要素が強いものですね。ただ、糖尿病というものは遺伝による要素も大きく、両親が糖尿病であった場合の発症率は40~50%。片方の親が糖尿病であった場合は30%というデータもあるくらいです。

—そんなに高いものなんですね。

賀来 とはいえ、やはり普段の生活が重要だと思います。特に経営者や重役の方は、気を付けていても会食が多く入ってしまうようなライフサイクルなので糖尿病になりやすくなってしまう。さらにストレス負荷が大きくなるとコレチゾールというホルモンが出て血糖が上がってしまうんです。

—なるほど。飲食や運動だけでなく、普段の精神的なストレスも発症に影響するんですね。

賀来 そうですね。それらが組み合わせると疾患リスクが上がっていきます。糖尿病にならないために、よく30分走りましょうとか言いますが、なかなか時間が作れない、続かないことが多いと思います。

—自分もですが(笑)、そういう方、多いと思います。

賀来 そういったなかで絶対にやってほしいことは、ジュースなどの糖分が入っている飲み物を避けていくことです。食べ物は摂取したときに血糖値は上がりますが、消化をしていくのでゆっくりではあるんです。一方、糖が入っている飲み物は水分なので吸収が早い。そうなるとインスリンが突発的に働かなければならなくなり、一気に負担がかかってしまう。運動や食生活の見直しも必要ですが、まずは飲み物を無糖に変えていくことから始めると良いと思います。

—ひとつ疑問なのですが、食べることで血糖値が上がることは自然なことだとは思います。そういったなかで、膵臓から出されるインスリン以外では体内で血糖値を下げることはできないのでしょうか。

賀来 良いご指摘ですね。人間はもともと、食物が豊富ではなかった時代が長かったので、摂取したもので血糖値を上げてエネルギーにするホルモンというのはいくつかあるんです。一方で、せっかく上げた血糖値をわざわざ下げる必要がなかったので血糖値を下げるホルモンはインスリンのみなんです。

—そもそも身体のつくりとして、これだけ飽食になるということが前提になかったので想定外の出来事が起きているんですね。もし糖尿病になってしまった場合、フェニックス メディカル クリニックさんではどのように対応されているのでしょうか。

賀来 弊院は栄養士がいますので、基本的にはまず飲食物と生活指導からおこないます。ただ、もういますぐ治療しなければならないという段階であればインスリンの適切な使い方などの指導になります。ただ、生活習慣病のなかでも糖尿病離脱自体がなかなか大変なので事前の検査が本当に大切だと考えています。予備軍となったとき、初期症状であるときにいかにアクションが起こせるかが大事なんです。難しいのは、太っていないから糖尿病に気をつけなくて良いというわけではないことですよね。逆に痩せている方がなりやすいという話もお聞きします。

賀来 そうですね。肥満症の方は食生活が荒れていることが多く環境要因で引っ張られているというのはありますが、若くて瘦せていても糖尿病になる人はいらっしゃいます。こうした方々は生まれつきの場合が多いのですが、そうでなくてもジュースや糖分が多い飲料を頻繁に飲んでいれば、血糖値がとんでもないことになってしまう。ですので糖尿病の家族歴や生活リズムに自信がない人は早めに検診に来られた方がいいと思います。やはり、インスリンを打つことになると、常に打たなければいけなくなるのでQOLが下がってしまいます。

—そうですね。好きなことができなくなるというのはストレスにもなりますしね。糖尿病だけの検診はできるのでしょうか?

賀来 基本的には大体の検診に糖尿の検査も組み込まれているので、半年に一度の検診で良いかと思います。ただ、どうしても気になる、ということであれば糖尿病は採血や採尿などでわかるので対応は可能です。ただ採尿だけですと、ちょっと糖分を多めに摂取したときなどには余った糖分が排出されてしまい判別が難しくなる場合もあるので、採血がより良い検査方法であるかと思います。

■賀来哲明
医療法人社団鳳凰会 フェニックスメディカルクリニック医長、産婦人科医長。2014年、東京医科大学医学部医学科卒業。同年より東京大学医学部付属病院にて医師として従事。2020年より現職に就任。

医療法人社団鳳凰会 フェニックスメディカルクリニック

住所:
東京都渋谷区千駄ヶ谷3-41-6【本館】
電話番号:
03-3478-3535
診療時間:
9:00~13:00、14:00~18:00(土曜は9:00~13:00)
休診日:
日曜、祝日
URL:
https://phoenix.gr.jp/