
【aristos特別インタビュー】長寿社会を担うNMNの “これまで”と“これから”
近年、日米や中国を中心に大きな注目を集めているNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)。
健康意識の高い方々に広く支持されており「人生100年時代」を健康に生きる鍵ともいわれている。
37年以上にわたり老化・寿命研究の最先端を牽引し、サーチュインとNMNの重要性を世界で初めて発見した今井眞一郎教授にお話を伺った。
ー今井先生が老化や長寿、NMNに携わるようになった経緯を教えていただけますでしょうか。
今井 私が慶應義塾大学医学部の学生だった頃、微生物学教室で老化・寿命に関する研究を始めたことに端を発します。その後、大学院を経て、当時老化・寿命研究の新しい潮流が興隆してきたアメリカに渡ることを決心、マサチューセッツ工科大学にポストドクター(博士後研究員)として留学しました。細胞内の重要な補酵素として機能し、エネルギー生成やさまざまな代謝プロセスで重要な役割を果たす、まさに「生命の通貨」と呼べる物質NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)とサーチュインに関する論文を2000年に英科学誌「ネイチャー」に発表しました。翌2001年に現在在籍しているミズーリ州セントルイスのワシントン大学医学部にアシスタント・プロフェッサーとして就任、自身のラボをスタートさせました。2023年からは卓越教授として研究を続けています。
ー今井先生は長年NMNを研究の主軸のひとつとしていらっしゃいますが、このNMNについてわかりやすく教えてください。
今井 NMNはNADを増やし、寿命に関わる“サーチュイン”と呼ばれる重要な酵素を活性化する抗老化物質です。動物実験の結果、健康なマウスに1年間に渡りNMNを投与すると、非常に多岐にわたる抗老化作用を示すことがわかりました。また、エネルギー代謝も改善し、加齢による体重増加を抑制、骨格筋、脂肪組織や組織のいろいろな遺伝子の発現パターンが若い頃の状態に戻る、といった効果も確認されています。世界中の研究者や研究機関がNMNの研究に取り組んでおり、発表されている論文の数も膨大です。そしてそれらの研究によって、少なくとも動物実験のレベルではもう完全にNMNの抗老化作用と、老化に関連する疾患を治療・予防する効果がもう完全に証明されている。そしてヒトにおける臨床研究もどんどん進んでいるという状況です。このようにNMNは日本でサプリメントとして提供されている他の物質と比べ、遥かに厳密かつ確固たる科学的基盤を持っているのです。
ーなるほど。今井先生は研究だけでなく、代表理事を務めていらっしゃるプロダクティブ・エイジング研究機構を通じ日清ファルマさんと共同でNMNに関して講演やメディア出演といった活動をされておられますが、なぜそうした活動を始められたのでしょうか。
今井 NMNを正しく使うためには、その科学的な基盤を一般の方々にきちんと理解していただくことが重要です。私は以前より一般の方々向けの講演会などを開いてきたのですが、日清製粉グループの日清ファルマさんから「NMN製品を販売する企業として、正しい知識を届けるために啓蒙活動を行うことは責務だと考えており、それを促進するためにご協力いただけないでしょうか」というお話をいただきました。日清製粉グループさんとは、同じグループのオリエンタル酵母工業さんとNMNの開発•研究を最初から行ってきたご縁もありました。それで、日清ファルマさんが開催し、プロダクティブ・エイジング研究機構が共催という形で講演会を開きましょうということになり、これまでに講演会を2023年より4回おこなってきました。これらはウェブサイトからすべて視聴可能です。
ー先ほど正しく使うために、理解することが重要とおっしゃっていましたが、NMNを摂るうえでの注意点はどのようなものがありますでしょうか。
今井 私たちの体はサーカディアンリズム(体内時計)により約24時間の周期を持って動いています。先にお話しした体内でNMN から変換される物質NADも同じ量がずっと体内に存在するわけではなく、個人差はありますが、昼間に高く夜に低いという周期で、お昼から午後の早い時間にピークを迎える。そして夕方に向けて下がり夜に低くなるわけです。つまりNMNは朝から、午前中に飲む必要があります。また1日に数グラム摂るのがいいと主張して販売されている製品も見受けられますが長期的に見ると機能障害を引き起こす可能性があるので、1日250mgから300mg、多くても500mgくらいの摂取がおすすめなのです。加えて、点滴等で直接血液中にNMNを注入するケースも見受けられますが、これにも十分な注意が必要です。時間の経過とともに運動神経に影響が出る可能性も考えられるからです。NMNには先にお話ししたように確固たる科学的基盤がありますが、こういった科学的に証明されている正しい情報を得て理解したうえで、摂取していただくということが重要だと思います。
ー摂る時間や量がポイントになるということですね。
今井 はい。そしてもうひとつ、日本の2023年度の国民医療費は47兆を大きく超えており、毎年4.5%ぐらいずつ増えている。この医療費を抑えるためにも病気になってからではなく老化を未然に防ぐこと、そのためにNMNを使うことが期待されています。NMNを薬にしてしまうと医療機関で処方箋をもらわないと入手できなくなるので、きちんとエビデンスがあるものを処方箋なしで市場に供給することが必要になってくる。だからこそ啓蒙が肝要であり、先にお伝えしたような正確な情報を常に我々サイエンティストが発信していくことが大切なのです。
ーNMN研究の今後についての展望をお聞かせいただけますか。
今井 NMNにはまだよく知られていない非常に強力な効果があるらしいということがわかってきています。少なくとも動物実験のレベルでは睡眠に対して非常に大きな効果があることが確認されており、NMNを飲んでいらっしゃる方からは体が疲れにくくなった、睡眠が改善されたという報告もあります。今後2,3年くらいの間にどんどん新しい研究結果が出てくると思いますので、NMNはまだまだ終わりではない。すごく楽しみな研究テーマだと思います。
今井眞一郎
Shinichiro Imai
テオドール&バーサ・ブライアン卓越教授
1964年東京都生まれ。慶應義塾大学医学部卒業、同大大学院修了。医学部生の頃から細胞の老化をテーマに研究。1997年渡米、マサチューセッツ工科大学にて老化と寿命のメカニズムの研究を継続。2000年、サーチュインによる老化・寿命の制御を発見。2001年からワシントン大学助教授、2008年准教授、2013年から現職。老化•寿命のメカニズムの研究、およびNMNを中心とした抗老化方法論の研究を牽引し、2023年にワシントン大学からテオドール&バーサ・ブライアン卓越教授の称号を授与された。一般社団法人「プロダクティブ・エイジング研究機構」代表理事も務める。