アアルト空間を五感で楽しめる 夫妻デザインのレストラン
アルヴァと共に名作デザインを世に送った妻のアイノ。
アアルトの作品は、夫婦の協働で生まれたものが少なくない。
ここではアイノの才能が発揮されたファインダイニングを紹介する。
アルヴァ・アアルトの最初の妻アイノも建築家であり、ビジネスパートナーという意味でもアルヴァにとって重要な存在であった。25年にわたり活動を共にしたが、アイノは先に病没。最愛の人を失ったアルヴァの悲しみはいかに深かっただろうか。
ふたりは多くのプロジェクトで協働していたが、アルヴァだけが名を記されているものも多い。女性が社会に出ることはあまりなかったという時代であった。しかしアイノがひとりでデザインコンペなどに出品していた記録も残っている。広く知られているのは、1932年にデザインしたガラスウェアの「ボルゲブリック」シリーズだ。彼女は濡れた手で持っても滑って落とさないよう、表面に起伏があるデザインを考案。日常使いに向き、利便性にも配慮した女性らしい視点が評価され、それはミラノ・トリエンナーレで金賞を受賞している。

アルヴァとアイノ、ふたりが共同で手掛けたものに、ヘルシンキの老舗レストラン「サヴォイ」がある。現在のシェフは、パリの巨匠ピエール・ガニエールの下で修行をしてきた女性料理人のヘレナ・プオラッカ。フィンランドスタイルのフレンチで、ミシュランガイドにも紹介されている。来年、創業90周年を迎える今日も、フィンランドで人気のファインダイニングというポジションを維持する。クレイフィッシュやトナカイ、野生のベリーといったフィンランドならではの食材を用いる他、パテとシチューをミックスしたような北欧の定番料理ヴォルシュマックなど、開業当時からあるメニューも変わらずに味わえる。

アアルト夫妻がデザインしたオリジナルの内装は、時代とともに手を入れられてきた。2000年にはテラスが追加設置され、老朽化した家具は適宜入れ替えられてきた。しかし2020年、英国のインテリアデザイナーであり、アアルト作品に深い知見をもつイルゼ・クロフォードによってオリジナルデザインが復刻、当時の意匠が今に蘇った。

アルヴァがデザインした「アームチェア45」という椅子もそのひとつ。いったん分解され、座面と背もたれはレザーに張り替えられ新しく再生されている。またホールのそこかしこには3つの円が三角につながる有名なフラワーベースが配され、ダイニングの天井からは真鍮製のペンダントライトが吊られている。ファインダイニングという贅沢な空間ながら、夫妻のデザインは人間らしい温かみに溢れ、ゲストは心からリラックスして食事を楽しむことができる。
アアルト作品に囲まれて、ダイニングのひとときを。デザインの国ならではという旅の楽しみ方だ。