未知の一皿が生まれる場所 「S’ACCAPAU」が拓く食材の新章
「S’ACCAPAU」の吉沢悠椰シェフが披露するのは、
野菜を主役に据え、イタリア料理の技法と日本の食材を重ねる独自の視点。
健全な食の在り方を問う姿勢から、
未知の一皿が生まれていく。
料理を取り巻くすべてが
健全でありたい
東京・西麻布の閑静な一角にあるレストラン「S’ACCAPAU(サッカパウ)」。
新たにシェフに就任した吉沢悠椰氏は、新時代の若き才能を発掘する日本最大級の料理人コンペティション「Red U-35」にて、2年連続シルバーエッグを受賞した新進気鋭のシェフだ。吉沢氏がこの店の中心に据えているのは「野菜」。「料理人として健康に良い料理をつくりたい。健康とは人の身体だけでなく、食材の育つ環境や生産者にとっても健全であること」。その思いから、同店では野菜を軸に、ほどよく肉や魚を織り込んだメニューが提供される。「ただ美味しい魚や肉を食べるのではなく、バランスを大切にしたい」と吉沢氏は話す。
料理のベースはイタリア料理。だが、クラシックな料理をそのまま再現するのではなく、日本の食材に新しい光を当てるアプローチが特徴だ。「クラシックなイタリア料理は現地で食べた方が美味しい。だからこそ、自分の経験を通して、日本の食材を活かした料理を作りたい」と語る。その感性は、自身のルーツである能登のオーベルジュ「Villa della Pace」や金沢の「Les Tonnelles」で培われたものだ。さらに金沢の酒蔵で蔵人として働いた経験もあり、料理とアルコールのペアリングにも深い理解を示す。「日本酒とのペアリングも考えています。アルコールと料理の関係性はとても重要」と語る通り、ワインだけでなく日本酒とも響き合う料理が並ぶ未来も楽しみだ。

食材との対話から生まれる
未体験の一皿
S’ACCAPAUは店作りも興味深い。地下へと続く階段を降りると、印象的なネオンの看板とガラス越しに見えるシックな空間が現れる。店内にはカウンターとテーブル席があり、カウンター越しに見えるオープンキッチンではシェフの料理がライブで見られる。黒を基調としたモダンで落ち着いた内装は、まるで都会の喧騒を忘れさせる大人の隠れ家のよう。「S’ACCAPAU」は、シチリア語で「完成した」という意味を持つ言葉であり、仕事や日常をひと区切りし、「さあ、ここからは食と向き合う時間」というメッセージが込められている。

この店で味わえるのは、前述したシェフ・吉沢氏による、食材との対話から生まれる創造的な料理。素材が秘めた魅力を引き出す鋭い感性と、形にするための確かな技術が融合し、ここでしか出会えない一皿へと結実する。
たとえば、京野菜の「万願寺とうがらし」は、収穫されずに成長しすぎた個体を味見した際、その強い甘味と旨味に魅せられた吉沢氏は、南イタリアの保存食「ペペロニ・クルスキ」にヒントを得て、新たなアミューズを誕生させた。乾燥させる代わりに旨味を足し、つぶして柔らかく仕立てた一品は、生ハムのような余韻をまとった作品となった。まさに日本とイタリアの融合から生まれた革新的な料理である。

デザートにおいても、その探究心は衰えない。焼き芋の中身でつくる「さつま芋クリームのティラミス風」では、通常は廃棄される皮を焼いて香りを抽出し、ミルクに移してアイスクリームに。さらに、形が悪く焼き芋にできない芋を炭化させて削り、「さつま芋の巣」として添えるなど、五感に響く細やかな仕立てが際立つ。
「誰もが知る野菜を、誰も知らない形で提供したい。あるいは、知られていない野菜や野草に新しい価値を見出したい」。その言葉の通り、吉沢氏の手によってS’ACCAPAUは未知の体験が生まれる場へと変貌を遂げている。S’ACCAPAUは静かに、しかし確実に、「健やかな食」の可能性を広げている。
S’ACCAPAU
サッカパウ

住所:東京都港区西麻布1-12-4 nishiazabu1124ビル B1F
電話番号:03-6721-0935
営業時間:18:00/19:00/20:00~、12:00~15:00(ランチ、土曜、祝日のみ)、20:00~23:00(バータイム)
定休日:日曜、不定休