
NYエスタブリッシュメントの特等席、 高級フレンチの王道〈ダニエル〉
ニューヨークに名店と呼ばれるレストランは無論、多いがとりわけスノッブな雰囲気に溢れ、客層の良さを誰もが認める店がアッパー・イーストサイドに構える、ここ〈ダニエル〉だ。
Ⓒ Thomas Schaur
セントラル・パークの東側、アッパーイ ーストサイドは、ニューヨークでも随一の高級住宅街。
錚々たる美術館が連なり、店先には制服姿のドアマンが立つ。そんな一画に〈ダニエル〉は構えている。
オ ーナーシェフとして創業したダニエル ・ブールー氏は、フランスの食都リヨンの出身。パリの三つ星レストランで腕を磨き、さらなる高みを目指して渡米。
名店〈ル・サーク〉の総料理長を務めて後、 1993年に〈ダニエル〉をオープンした。
いうまでもなく、ニューヨークは贅を極めた文化の中心地。
イノベーティブなガストロノミーを望むなら、〈パ・セ〉や〈イレブン・マジソン・パーク〉など他にも選択肢はある。
ではそれらを超える〈ダニエル〉の価値とは何か。
その答えはどこよりもエレガントな佇まいと、それがいかにも似合う客層の良さだ。
この店では大声を出し、写真を撮り合う外国の団体旅行者はまず見かけない。
常連客の比率は高く、地元の富裕層をはじめ、米国政財界の重鎮やアーティストが顧客に連なる。
Ⓒ Bill Milne
Ⓒ Bill Milne
まさにエクスクルーシブなので、一流企業がビジネスディナーに選ぶのも頷ける話だ。
ところで、今日、全世界が日本食ブームに沸く以前から、ブールー氏は日本の食文化に着目しており、大の日本贔屓であった。
そして2011年、東日本大震災の発生を知ると、声を上げた。
「我々に今できる日本に対する一番の支援は、日本に行くことだ」
シェフ仲間たちと来日して釜石市に滞在。三陸地方の食材を調達して、被災者に本格的なフレンチを料理して提供。
皿数は2,000人分に及んだ。その行いは、日本の食材の安全性を、世界に向けてPRするためでもあったという。
さて、掲載した料理写真は〈ダニエル〉の最新メニューだ。
さらに別の料理では、マスのスモークの隠し味にワサビを効かせるなど、依然、日本風味からインスピレーションを得ている様子。
しかしそれは安易なフュージョン料理ではない。〈ダニエル〉は、あくまでもフレンチの王道を歩む。
ここがニューヨークの特等席である。