皇帝の木型を残す フルオーダー靴店〈シェール〉

皇帝の木型を残す フルオーダー靴店〈シェール〉

フランツ・ヨーゼフ1世の足を採寸した老舗。

現7代目の当主は整形外科靴マイスターの資格を保持。

最高の靴づくりに日々を費やす。

紳士服店〈クニーシェ〉の裏手路地には、最上のスーツに理想的なフルオーダー靴の工房兼店がある。

〈シェール〉の創業は1816年と、こちらも200年を超える堂々たる老舗。ハプスブルク家御用達店だ。

初代のヨハン・シェールは家業だったワイン用ブドウ農家を継がずに、靴工房を開いた。

時は下ってその孫ルドルフはパリで靴づくりの修行を重ね、1873年のウィーン万博で金賞を受賞した。

こうして〈シェール〉は宮廷御用達職人に認められた。

今日も完全なビスポークシューズを貫くので、店に既製品の品揃えはない。

その代わりに、フランツ・ヨーゼフ1世がオーダーした靴や、作家フランツ・カフカの靴が展示されていた。

それ以外は木型の山。いかに多くの趣味人が、ここで靴をあつらえてきたかわかる。

〈シェール〉の工房は静まりかえっている。

職人たちはイスに座り、靴づくりに向き合う。

現当主は7代目のマルクス・シェール氏。

整形外科医の白衣を着て、寡黙に木型を削り続ける。

同氏は整形外科靴マイスターという資格を保持している。

顧客にとって健康な足の状態を保ちながら、完璧なフィット感と美しいフォルムを実現できる靴職人の称号だ。

白衣着用はマイスターとしての矜持の表れなのだろう。

完全なフルオーダーなので決まったスタイルはないとのことだが、ひとつシグネチャーシューズを教えてくれた。

2枚の革をアッパーの中央で縫い合わせた、センターシームシューズである。

近年は、既製品のバッグや革小物なども多少置くようになった。

〈シェール〉では、足の最初の採寸から靴が完成するまでに、およそ半年かかる。

この店に我が足の木型を置いてもらえれば、靴好きにとってこれ以上の誉れもないだろう。

ウィーンは粋人たちの都でもある。

Scheer/シェール

住所:
Bräunerstrasse 4 1010 Wien
電話番号:
+43 1 533 80 84
営業時間:
10:00〜17:00 土曜10:00〜16:00
定休日:
日曜・祝日