美食の記憶を継ぐ 麻布十番の隠れ家フレンチ 〈Nose Savoir-Faire〉
元麻布の静かな空間で供されるのは、
能勢和英シェフが歩んできた時間そのものとも言えるフランス料理。
9席のカウンターで、技術と記憶が重なり合う濃密な時間を味わえる。
美食家たちの間で静かに名を広げる〈Nose Savoir-Faire(ノセ・サヴォアフェール)〉。扉を開けた先に広がるのは、厨房と客席の境界を限りなく近づけた、9席のオールフラットカウンターだ。目の前で一皿が完成していく様子を眺める時間は、まるで舞台を鑑賞しているかのような高揚感をもたらしてくれる。
この空間を手掛けるのは、能勢和英シェフ。19歳で、日本フレンチ界の草分け的存在として知られる〈クレールド赤坂〉の志度藤雄氏に師事し、料理人としてのキャリアをスタートさせた。以降、〈シェ松尾 松濤レストラン〉料理長や〈俺のフレンチ〉総料理長などを歴任し、日本のフレンチシーンを牽引してきた実力派である。

全11品前後のコースは、その時季に最も良い状態の食材を軸に構成される。なかでも象徴的な存在となっているのが、“青い宝石”とも称される活けブルーオマールだ。
〈ノセ・サヴォアフェール〉では、その仕立てをシーズンごとに変えながら提供しており、現在は「シーズン27」に至っているという。さらに、料理に使用した頭部は、100年前に実際にフランスのレストランで使われていた「ダックプレス」で丁寧に圧搾。絞りたてのスープとして供され、オマールの濃厚な旨味と香りを余すことなく味わえる。

また、コースの締めに供される「~オマージュ~M.Shido」には、能勢シェフの原点とも言える記憶が込められている。
修業時代、皿洗いを担当していた若き日の能勢シェフが作った「まかない」を、志度氏が高く評価。そのご褒美として、通常は口にすることのできない“志度カレー”をご飯にかけてくれたという。その味は「料理人人生で最も忘れられない味」となるほど強烈な体験で、以来、能勢シェフは志度氏のそばでカレーの技術と哲学を学び続けた。
志度氏が生み出したそのカレーは「フォンドボーカレー」と呼ばれ、日本のホテルカレーの先駆けとも言われる存在。1940年代、銀座〈日動グリル〉で提供され、多くの歌舞伎役者や銀幕スター、政財界の著名人たちを魅了した逸話を持つ。
〈ノセ・サヴォアフェール〉では、その歴史ある味わいへの敬意を込め、約1週間をかけて仕込む。フォンの深い旨味、幾重にも重なるスパイス、静かに広がる余韻。その一皿には、料理を超えた記憶と系譜が宿っている。
さらに、この店の魅力を際立たせているのが、カウンター越しに料理が仕上がっていくライブ感だ。シェフの所作や火入れの音、立ち上る香りまでを間近で感じながら、一皿ごとの流れを楽しめる。9席という空間だからこそ生まれる一体感も、この店ならではの醍醐味と言えるだろう。

〈ノセ・サヴォアフェール〉が届けているのは、単なる高級フレンチではない。料理人の人生や哲学、受け継がれてきた技術と美意識を、一皿一皿を通して感じさせる濃密な時間である。限られた席数だからこそ生まれる親密な空気感とともに、その夜は特別な記憶として深く刻まれていく。
Nose Savoir-Faire
ノセ・サヴォアフェール
東京都港区元麻布3-12-4 SP元麻布202
050-3159-8881(13:00~17:00)
18:30~(一斉スタートとなります)
日曜、祝日
www.frenchnosetokyo.com