
【aristos特別インタビュー】いまはじめる 賢い相続と資産運用
『100億円相続辞典』という書籍がある。
100億円相続事典~1億円との徹底比較で見えてくる違い~
著者:レガシィマネジメントグループ
発売:日経BPマーケティング
50音順に相続にまつわる金銭的なことだけでなく、弊誌読者の誰もが直面するであろう出来事を網羅している非常に興味深く、面白い内容だ。
本書を生み出したのは、税理士法人レガシィをはじめとする複数の専門法人からなるレガシィマネジメントグループであり、まさに実体験から選びぬかれた言葉の数々といえる。
今回、IFA大手で富裕層向け資産運用アドバイスをおこなうファイナンシャルスタンダード株式会社と、レガシィマネジメントグループのトップ対談が実現。
誰もが気になる相続と資産運用の最前線をうかがった。
—とても興味深い書籍ですがまずレガシィさんの事業についておしえてください。
天野 弊社は1964年に私の祖父が立ち上げて、今年で61年となります。30数年前に相続専門に舵を切ったのですが、一番の強みは相続・事業承継でして、そこから派生する不動産の売買や活用、M&A、士業支援、昨今では生成AIを活用したデジタルサービス開発にも注力しています。お客様としては富裕層の中でも財産規模が10億円以上の方々に特にご満足いただけています。
—そういった面では資産運用にも関わってくるかと思いますがファイナンシャルスタンダードさんの事業についても教えて下さい。
福田 弊社のメイン事業は独立系ファイナンシャルアドバイザー、IFAとも言われますが、資産運用プランの作成、口座開設、実行、その後のフォローまでワンストップでサポートしています。金融商品、金融資産の運用アドバイスだけでなくて、不動産や保険などトータルで運用管理し、そのサポートを含めてワンストップでおこなっています。弊社では金融資産3億円以上の方を対象にしたプライベートバンキング部門があり、担当のプライベートバンカーと不動産鑑定士やポートフォリオマネージャーといった専門家がチームでサポートさせていただいております。
—やはり、財産がある方になればなるほど相続や継承の問題があり、自分が元気なうちにいろいろなことを決めていく必要が出てくるかと思いますが、最初に大事だとされるようなことはあるのでしょうか。
天野 もちろん、お客様の思いに応じて考えていくことは非常に大事ですが、富裕層の方はやはり株式や不動産をお持ちの人が多いです。そのなかで投資として実入りがあるので運用していくのか、メリットがなければどうしていくのかということは相続と運用においては重要だと考えています。
—そうなると資産運用の視点も必要になってきますよね。
福田 そうですね。相続対策としての資産運用を行う場合、個人のバランスシートをお作りすることをおすすめしています。そうすると、視覚的にどういう資産構成になっているのかと同時に負債が見えてくるんです。
負債は、将来発生する支出のことを指しますので、相続税はまさに将来発生する支出、負債なんですね。
こうして課題等を見つけながら、優先事項を決めて長期的に対策を練り、運用をどう考えていくのかが良いと思っています。
天野 いいですね。特に相続税などは発生することがわかっているのに準備をしていなかったことのほうが多いですし、見える化されることで相続税や運用に対して余計な不安がなくなって、やりたいことへと気持ちが向いていくことで本当にウェルビーイングな相続になっていくんだと思います。
—そうですね。一方でプロフッショナルの方が課題をどう解決していくのかというときには、新しいトレンドや潮流にも対処していかなければいけませんよね。
福田 はい。私どもの視点ですと、まさにいまのインフレなんです。今年に入って、ずっと物価の上昇率が3%超というのが継続していて、現預金はインフレの時代には歴史的に負ける資産なので、運用をしていくことが非常に重要なんです。でも日本人の金融資産の50%以上は、いまだに現預金になっているので、大きな問題でもあると思っています。
—なるほど。では富裕層はどのような運用が良いですか。
福田 まず、インフレに負けない資産である株式や不動産が重要です。特に金融資産の運用は王道がいいと思っているんです。世界一の投資家と呼ばれるウォーレンバフェットさんが一代で築いた金融資産は20兆円超なんですね。 いま95歳になられるんですが、その資産の99%以上は55歳以降に築いてるんです。でも、55歳以降にとんでもない運用パフォーマンスをあげたわけではなく、年率リターンはアメリカの株価指数S&P500より少し良い程度なんです。資産運用を11歳からやっていたので、誰よりも長く資産を運用し、誰よりも福利効果を得ていた。つまり、富裕層だから特別な運用をするのではなく、ちゃんと理にかなったやり方を続ける、これが資産を守る意味でも一番適しているのではないかなと考えています。
天野 長期目線は大事ですよね。相続対策においても基本的には長期的にコツコツと積み重ねていくことが大切です。ただ、昨年の贈与税改正では、資産を次世代に移しイノベーションを促すという素晴らしい意義がある一方で、継続的な贈与を続けてきていきたい方には増税と感じられる面もあります。特に後継者不足という社会的課題を抱える事業承継分野については長期的継続的な対策がより重要です。納税猶予制度の活用は非常に有効な選択肢ですが、企業によっては厳しいと感じる要件もあり、それ以外の組織再編やM&Aを活用したオプションも重要性が増しています。こうした現状をふまえ、私たちは専門チームで長期的にサポートしています。
—どの選択肢が最善かは経営環境や時代によって変わるので長期的なサポートはありがたいです。
天野 はい。デジタル技術の発達で長期的な管理もより便利になってきました。国としてもデジタル化を進めていて、近年話題の「デジタル遺言」が法制化されたときに備え、作成支援アプリや保管含めて対応できるように開発部隊も積極採用しています。
—デジタル遺言というものがあるんですか。
天野 はい。遺言というと、今も「自筆で書いて紙で残すもの」といったイメージを持たれている方が多いのですが、実際には自筆証書遺言の財産目録はワープロ作成が認められ、法務局での保管制度も始まっています。
さらに今、法制審議会では、電磁的記録による遺言や電子署名、公的機関によるオンライン保管を含む新たなデジタル遺言方式の創設が具体的に議論されており、制度化が現実的な段階に入ってきました。
私たちとしても、生成AIなどを活用して、ウェルビーイングな気持ちで遺言を作成・保管できる社会を実現したいと思い、アプリをはじめ仕組み作りにも取り組んでいるところです。
—管理や効率化とともにデジタル化されることで、遺言が残しやすくなり、相続や贈与に対しても家族で理解が深まるといいですよね。
天野 そうですね。デジタルを使えばもっと色んなことができるはずなのに、とくに高齢者の方はよくわからないということで諦めが生じてしまっていて、そもそも触らないという人も多いんです。
我々としては、その可能性やポテンシャル、ワクワクするような生活をご提供したいと思い、新規事業として終活の取り組みのひとつとしてシニアの方々向けにデジタル支援サービスをご提供しているんです。
福田 それはいいですね! 喜ばれると思います。
天野 やはり家族間での会話は非常に大事なのでデジタルツールを使って、財産を今後どう運用していくかなど専門の研修などを受けたメンバーや外部の方と提携しながらやっています。
福田 資産運用や相続というものは手続きや管理も大事ですが、家族間の感情や話し合いが本当に大事なんですよね。連絡方法が電話しかないというご家庭も多いです。遠くにいらっしゃったりとか、時間もなかったりとかするので、そういったなかで円滑に資産を後世にしっかりと受け継いでいく体制が取れるようサポートしていきたいですね。
福田猛
ファイナンシャルスタンダード
株式会社 代表取締役
日本金融商品仲介業協会理事
同志社大学卒業後、大手証券会社を経て、2012年ファイナンシャルスタンダード設立。著書は2023年12月出版の「この世でいちばん臆病な投資生活」(サンマーク出版)を含め5冊。
天野大輔
税理士法人レガシィ
代表社員税理士・公認会計士
慶應義塾大学大学院文学研究科修了後、同年大手情報システム会社でシステムエンジニアとして勤務。2015年、税理士法人レガシィへ入社。2021年に税理士法人レガシィ代表と同時に、株式会社レガシィ代表取締役社長、行政書士法人レガシィの代表社員行政書士となる。