深い森の中で人間愛を追求した 1930年代モダニズム建築の金字塔
アアルトの建築物にはヒューマニティがある。
結核療養所として設計されたこの建物からは建築家の幸福度の追求が窺える。
今日、文化遺産として保存公開され、あの名作チェアもここから誕生した。

アアルトの名を一躍世界に知らしめたのは、フィンランド南西部のパイミオ市に建設された下のサナトリウムだ。19世紀から猛威をふるってきた肺結核。この感染症に対する隔離・療養施設を建設するため、1929年に建築コンペが行われ、アアルトの設計が首位を獲得した。細部にわたり利便性や機能性を追求した建造物は、1933年に竣工した。
建設当時は松林が現在ほど高く成長しておらず、「降り立ったばかりの宇宙船のよう」とも評されたという。現代人の目からすればそう驚くものでもないが、和暦なら昭和初期という時代に、コンクリートやガラスを多用した大型高層ビルを野に建てたのである。いかにも斬新であったことだろう。

アアルトは療養施設としての機能を徹底して図った。例えば手指からの接触感染を避けるため、腕を使ってドアを開けることができる。また医療従事者の白衣がドアハンドルや手すりに引っ掛からないよう、部材の形状は曲面で構成されている。この曲面形状は以後のアアルト建築でも頻繁に登場する。
療養患者たちの精神衛生にもアアルトは工夫を凝らす。床はマスタード色、1階の壁は柔らかな東雲色、2階の壁は青竹色、というように目に優しい配色を採用。日光を浴びられるように窓は大きく取られているが、ベッドに横になったときに目に直射日光が当たらないよう配慮されている。患者にとっての穏やかな住環境を建築家は模索した。

さて、このサナトリウムから生まれたのが、10ページに掲載した通称「パイミオチェア」と呼ばれるアームチェアだ。アアルトは家具が建築を補完すると考えていたが、この椅子では結核患者の呼吸を楽にするため大きく傾斜をつけ、腕を背面の輪に回して胸を広げられるようにデザインした。独特の曲木手法を用いて強度を高めつつ、柔らかな曲線を描くそのフォルムは、アアルトによる癒しの追求だと今日にも評価されている。
アアルトはサナトリウムを「Instrumentalof Healing(癒しの楽器)」と喩えた。今日は歴史的文化施設として保存・公開され、ガイドツアーも実施。一部、体験宿泊することもできる。アアルトの時代に一夜を過ごせる。
Paimio Sanatorium
パイミオ サナトリウム
住所:Alvar Aallon tie 275 Paimio
電話番号:+358 41 318 4431
URL:https://paimiosanatorium.com/
※ガイドツアーは要予約