"進化する AGA治療のアプローチ"

男性型脱毛症(AGA)は男性の約3割が発症する身近な悩み。

薄毛は遺伝だからと諦めるのは間違いで、その原因はさまざま。

フェニックス メディカル クリニックの賀来哲明氏に、最新の診断法や治療法、将来の展望について伺った。

大きな原因の一つはDHT

AGAとは具体的にどのような症状を指すのでしょうか?

賀来 AGAは、テストステロンという男性ホルモンが代謝されDHT(ジヒドロテストステロン)に変換されることで進行します。DHTは毛根のレセプターに作用し、毛根を徐々に縮小させ、太く長い髪の毛が細く短い髪へと変わり、前頭部や頭頂部から薄毛が目立つようになっていくんです。男性では約3割が発症するとされ、特に母方の家系に薄毛の人がいる場合、その影響が強く現れます。また、AGAの進行には喫煙や高血圧、メタボリックシンドロームなど生活習慣も大きく関わります。こうした要因は血流やホルモンに影響し、薄毛の進行速度を左右します。女性の場合はホルモンバランスの変化が影響し、出産後や閉経前後に急に髪が抜けやすくなることが多く、AGAとはまた異なるアプローチが必要なんです。

—家族の中でも薄毛に差が出る場合もありますね。

賀来 同じ家系でも薄毛の進行度に個人差が出るのは、毛根のDHTレセプターの感受性や血流、生活習慣など複数の要因が絡み合うためです。つまり、遺伝だけで薄毛になることはなく、生活習慣や健康管理でリスクをある程度コントロールできるということでもあるんです。

—遺伝が絶対というわけではないのですね。ちなみに、DHT以外の薄毛の原因にはどんなものがありますか?

賀来 薄毛を引き起こす要因は多岐にわたります。薬剤性脱毛症では抗がん剤などが典型例です。また、急な精神的・身体的ストレスで毛周期が乱れるストレス性脱毛や、円形脱毛症もあります。女性の場合、出産後や閉経前後のホルモン低下により髪が薄くなることもあります。これらの場合は、原因に応じた治療が必要です。

2種類の治療薬が主流

—現行のAGA治療はどのようにおこなわれているんですか。

賀来 現在の基本は「デュタステリド」(内服)と「ミノキシジル」(外用、内服)です。デュタステリドは2000年に発売された「ザガーロ」という薬で、従来使われていたフィナステリドという薬の1.6倍から2倍ほどの効果があるとされています。テストステロンのDHTへの変換を抑え、抜け毛を予防する防御のようなイメージ。ミノキシジルは、一番有名なのが「リアップ」で、血流を改善し、毛根に栄養を届けて発毛を促す薬で攻めの治療。男性では両方を併用することが多く、女性はミノキシジルが中心です。また、AGAの診断は、従来は医師の目視やスコープによる診断が中心でしたが、現在はより定量的な診断法が可能になっています。たとえば、毛髪に含まれるDHTの濃度を測定する検査キットがあるのですが、510本の毛髪を採取し、外部機関で解析することで個人の薄毛リスクを客観的に評価できます。これにより、見た目だけでは判断できなかった早期のリスク判定が可能となり、未然に介入することができるようになりました。

—現状のリスクが数値で見られるのは画期的ですね。そのほかに、注目している治療法はありますか?

賀来 PRP療法やレーザー治療といった治療法があります。PRP療法は患者自身の血しょうを抽出し頭皮に注入する方法で、成長因子という組織を修復する機能があるので、毛根の修復や血流改善に役立つといわれています。自分の血を使うので、リスクが少ない。レーザー治療は、レーザーを直接頭皮に照射し、毛根を刺激して発毛を促す治療法で、通院は必要になりますが、内服薬のような全身の副作用は少ないとされています。

—治療を始めるうえで副作用が気になる人も多いと思いますが、注意点はありますか?

賀来 デュタステリドでは性機能の低下が報告されることがあり、若い人で妊活中の場合は避けるのが望ましいです。また、副作用といえるかわかりませんが、全身の毛に作用するのでまつげやひげなど体毛全般に発毛効果が出ます。外用のミノキシジルは頭皮のかぶれ、内服の場合はまれに肝機能への影響があります。内服薬は全身に作用するため、やはりちゃんとした医療機関で治療されるのをおすすめします。使う薬自体は同じであっても濃度を上げたり、効果を上げていくと、体に副作用が出ることもあるので、定期的な医療チェックや採血による安全管理が重要です。治療初期には「初期脱毛」と呼ばれる一時的な抜け毛が見られることがありますが、これは毛根の成長サイクルが正常化する過程で起こる自然な現象です。焦らず最低でも半年は継続することが大事ですね。オンラインで薬を買ったりすると、このような説明がなく、とりあえず飲んでみたけど、初期脱毛が怖くてやめてしまうのはもったいないので、きちんと説明してくれる医療機関で治療するのがいいと思います。

—今後のAGA治療はどのように進化するのでしょうか?

賀来 治療法は今後もたくさん出てくると思いますが、おそらく、当面はこのデュタステリドとミノキシジルの二刀流という形だと思います。ただ、医療全般にいえることですが、将来的にはAGA治療も「早期予防」の方向に進むでしょう。たとえば当院では、昨年、婦人科だけでも前がん状態を613例ほど発見しており、より未病の状態から治療することができます。AGA治療でも同じことがいえます。遺伝リスクやDHT濃度、生活習慣を総合的に評価し、未病の段階から治療を開始する人が増えると思います。薄毛になる前から治療して、なるべくAGAにならないようにしましょうみたいな、アプローチの方向に変わってくるんじゃないかなと思っています。薄毛の原因が高血圧やメタボなどということもありますので、早め早めに介入していくのが大切だと思います。

賀来哲明

医療法人社団鳳凰会フェニックスメディカル クリニック医長、産婦人科医長。2014年、東京医科大学医学部医学科卒業。同年より東京大学医学部付属病院にて医師として従事。2020年より現職に就任。

 

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