“エロスとタナトス”が交錯する幽玄泡

“エロスとタナトス”が交錯する幽玄泡

 国内外の観光客でにぎわう鎌倉駅からバスで10分ほどの閑静な住宅街を抜けた山のふもとにひっそりと佇む寺院、覚園寺。

大小あわせて120ほどの寺院があるといわれる鎌倉の中でも由緒正しく、また荘厳な霊気漂う空間を有する寺だ。

1218年、薬師如来の眷属(けんぞく)である伐折羅大将が鎌倉幕府2代執権・北条義時の夢に現れたことが薬師堂建立の端緒であるといわれている。

 その覚園寺にて2025年6月末、完全非公開な茶会『幽玄泡』が開催された。

『幽玄泡』は、ただの茶会ではない。生と死・官能をテーマにした世界でも稀有なイベントであり、まさに秘儀のような催しとなった。

 居合の名士である横須賀安理氏による露払いの儀を皮切りに、普段は人の立ち入ることが許されない覚園寺・歴代住職の墓所を参拝。

檀家の墓所の奥の細い一本道を抜けた場所にあるその特別な場所は澄んだ空気のなかに悠久の歴史を感じさせる厳かな雰囲気に満ちていた。

その後、場所を移し茶人・藤澤龍一氏を亭主としたお茶会が催され、風雅なひとときを楽しんだ。

 茶会の後は覚園寺・仲田順昌住職、藤澤氏、生物学者・福岡 伸一氏による「生と死」「動的平衡」※をテーマに繰り広げられたトークショウや生命のうつろいや宇宙の神秘を表現した前衛舞踊デュオ・86B210による舞踏がおこなわれ、覚園寺という場所だからこその言葉や音、空気を体感した。

 その後、エクスペリメンタルな作曲家/パーカッショニスト・佐藤正治氏による木々に奇妙にこだまする打楽器演奏・ヴォイスを聴きながら、スーパーフードを使ったサラダや個性的なパン、日本酒などが振舞われた“百鬼夜行の宴”は、まさに唯一無二。

 最後の演目は、こちらも普段は立ち入ることを許されていない“やぐら”と呼ばれる洞窟が舞台。企画した主催者、桜舞香氏が亭主となり、「幽艶の一服」というエロスとタナトスを表現した香と茶の儀式で幽玄泡の茶会を締めくくった。

 このようなさまざまなイベントが16時から5時間に渡り催され、超個性的な顔ぶれが発するなまめかしき気配、夢幻のひとときを堪能した。

 

※動的平衡:物事が常に変化し続ける中で、ある状態を保つための仕組みやバランス

 

幽玄泡とは

茶道には陰陽のバランスを重んじる概念があります。

照らし出す煩悩と菩提、また動的平衡の生命観の脈動も生と死があらがう陰陽の概念です。

「幽玄泡」は、この、生と死の狭間に 官能と静寂が交錯する儚い一瞬を「美」として誰える茶の世界観です。

この消えゆく美を組解くひとつの鍵として、生物学者 福岡伸一が提唱する動的平衡の生命観を重ねています。