プレイヤーの息遣いを感じる〈スモーク・ジャズクラブ〉

プレイヤーの息遣いを感じる〈スモーク・ジャズクラブ〉

ニューヨークのナイトライフを語る上で、ジャズクラブは欠かせない。

訪れるなら観光化された店でなく、地域に根づいた店を選びたい。ここはアッパー・ウエストサイドにある、まさにそんなクラブだ。

ジャズの都、ニューヨークで〈スモーク・ジャズクラブ〉は際立つ個性を放つ。

ダウンタウンの繁華街に名を連ねる〈ブルー・ノート〉や〈ヴィレッジ・ヴァンガード〉などとは異なり、この店は文化施設も多い瀟洒なアッパー・ウエストサイドにある。

かつてニューヨークのジャズが黄金期を迎えたのは、 アップタウンの、とりわけハーレムだった。

1920~30年代、〈コットン・クラブ〉や〈サボイ・ボールルーム〉では、デューク・エリントン、ルイ・アームストロング、カウント・ベイシーらが聴衆を魅了した。

そのアップタウンの流れを継ぐ〈スモーク〉には、世界中からミュージシャンが集い、伝統的なスイングから即興演奏まで、多彩なスタイルのジャズが鳴り響く。

ジョージ・コールマン、ハロルド・メイバーン、エリック・アレキサンダーなど、ステージに立った名手は数えきれない。

わずか80席ほどの小さな空間は、ミュージシャンの息遣いが感じられるほどの距離感だ。

真紅のカーテンが揺れるステージ、ビンテージ風の装飾が、往年のジャズクラブの雰囲気を感じさせる。

常連客の多くは地元のニューヨーカー。観光客で賑わう大型のジャズクラブとは異なり、地域に根ざした親密な雰囲気を醸し出す。

「スモークが成功したのは、この街のコミュニティーを大切にしてきたから」と語るのは、1999年の創業以来のオーナー、ポール・スタッシュ氏。

界隈には住宅街が続き、通りにジャズの音色がこだまする。夏の夜には大きく開かれた窓越しに、室内の演奏を垣間見ることもできる。

公演は水、木、日は19時と21時の2ステージ、金と土はさらに22時半のステージも加わる。オーナーの妻がシェフを担うダイニングの料理も評判が高い。

訪れた金曜の夜、ステージに上ったのは世界的に活躍するピアニスト、ジャッキー・テラソンのトリオ。パーカッシブにして繊細なタッチ、複雑なハーモニー、遊び心に溢れる即興演奏が、観衆の心を虜にした。

歴史と革新が交差するこの場所で、今宵もジャズの魔法が紡がれる。