
芸術と社交が交差するガラ公演の価値〈アメリカン・バレエ・シアター〉
米国が世界に誇る、ニューヨーク本拠のバレエ団。
6月。例年、この季節にガラ公演が幕開ける。
華やかなガラ・ディナーの夜、数多くのパトロンが詰めかける。
ニューヨークを拠点に世界的な活躍を続けるアメリカン・バレエ・シアター(通称ABT)。
1939年の創設以来、煌めくスター・ダンサーを数多く輩出してきた。その伝統は今も脈々と受け継がれ、多彩な顔ぶれが集う。
ⓒ Rosalie O’Connor, courtesy of American Ballet Theatre
バレエ大国のロシアやイギリス出身のダンサー、情熱的なブラジルやアルゼンチンの舞踏家、米国内から選ばれた俊英たち、さらにアジア出身の才能も台頭し、まさに多人種、多文化が融合するニューヨークの息吹を体現するかのようだ。
演目の豊かさもまたABTの魅力だ。『白鳥の湖』や『ジゼル』などの荘厳な古典全幕作品はもちろん、20世紀以降のモダンバレエやコンテンポラリー作品などにも果敢に挑戦している。
ニューヨークでの公演は、 6月から7月の春公演、10月から11月の秋公演に分かれる。
なかでもメトロポリタン歌劇場で催される春公演は、街にバレエの季節が到来したことを告げる風物詩だ。そしてこの新シーズンの幕開けを華々しく飾るのが、 ABTのガラ公演である。
ガラ公演はまさに芸術の響宴。舞台にはABTのスター・ダンサーが集い、珠玉の名作が披露される。
上演後のガラ・パーティーはファッション界、セレブリティー、社交界のエリートたちが一堂に会し、豪華絢爛なディナーやレセプションが催される。
タキシードやイブニング・ドレスに身を包んだ紳士淑女がシーズン開幕を祝う姿は、まるで映画のワンシーンのようだ。
しかし、この宴の本質はバレエ団の運営を支える慈善活動にある。
一年に一度、集まった篤志家たちは、ダンサーや振付家、関係者たちと親交を深め、ABTの発展を願い献金を行う。
ガラ・チケットはディナー付きで販売されるが、特別席を設けたテーブルは一卓(10席)30,000ドル(約450万円)から100,000ドル(約1,500万円)に及ぶ。
やがて舞台を終えたダンサーたちが、煌めくドレスに身を包み、優雅にディナーテ ーブルへと着席する。
その席順は事前に決められ、篤志家たちは憧れのダンサーと同席を望むこともできる。
芸術と社交が交差する、ニューヨークならではという夢の時間が流れていく。
ⓒ Roy Rochlin from Getty Photography